CSハイタッチ組織の立ち上げから、VoC(顧客の声)を活かしたサクセス戦略まで
こんにちは。株式会社ベーシックの秋(@jaesoon_aki)です。
現在『ferret One』というBtoBマーケティングツールのカスタマーサクセス部にて、アカウントマネジメントグループのマネージャーを務めています。
【自己紹介】
ベーシックではインサイドセールス、フィールドセールスを経て、昨年5月にハイタッチ組織(アカウントサクセスチーム)立ち上げのためにカスタマーサクセス部にジョインしました。
(※アカウントマネジメントグループの体制図についてはこちらをご覧ください。)
先日CXinさんに、私がカスタマーサクセス部にジョインしてから取り組んできた施策をまとめて記事にしていただき、多くの反響をいただきました。
今回はその中でも最も反響があったハイタッチ組織『アカウントサクセスチーム』の立ち上げに絞って、具体的な取り組み、また直面した課題などについて振り返ってみたいと思います。
最近では多くの企業がカスタマーサクセスの重要性を再認識し、体制の構築や強化に取り組んでいると思います。
このnoteを読んでいただくことで、ハイタッチ組織の立ち上げやオンボーディング体制の強化、またVoC(顧客の声)の活用方法について考えているカスタマーサクセス責任者や現場担当者の方に役立つことができれば幸いです。
【セールス部在籍時に感じていたこと(立ち上げ前)】
私がまだセールス部に在籍していた時、自分が受注したお客様に更新をしていただけずに解約されてしまうことが続いていました。その中には、「ferret Oneを通じて必ず成功に導ける!」と自信を持って導入していただいたお客様も多かったです。そんなお客様が解約してしまったという経験、皆様もあるのではないでしょうか?
顧客が離れてしまう原因の多くは何かしらの「ギャップ」からくるものと考えています。この「ギャップ」が何かを具体的にすることが出来ない限りは、今後も解約は止まらないのではないかと危機感を強く感じていました。
現在はかなり改善が進んでいますが、当時でいうとプロダクトとして解決しなくてはいけない「ギャップ」も多々ありました。しかし、個人的には「ferret Oneが掲げるビジョン、理想のプロダクトを作り上げるまでに出てくる課題や顧客ギャップは、必要なソリューションや人で埋めるべきだ」と考えています。この考えはferret Oneに携わってから全くブレていないものです。
そんなとき「アカウントサクセスチーム」の立ち上げをして欲しいというミッションを会社からもらいました。これまで自分が感じていた事業課題を解決し、自分が考える理想の顧客サクセスを実現すべく、カスタマーサクセス部へのジョインを決めたのです。
【主に取り組んできたこと】
▶全クライアント訪問の実施
自分の中で、「顧客サクセスにはこういった取り組みが必要なのではないか」、「こうすれば解約を防げるのではないか」という仮説はあったものの、当時は顧客の解像度がとても低かったため、仮説の質を上げるためにも顧客の解像度を上げる必要がありました。
そこでまず初めに取り組んだことは、「全クライアントへの訪問の実施」です。関東はもちろん遠方の顧客も1件1件アポを取り、立ち上げメンバー(※当時は自分含め2人)で、3ヶ月間かけて全ての顧客を回りきりました。自分以外のもう一人のメンバーはチーム立ち上げと同時に入社したメンバーだったので、入社すぐの全顧客訪問はいろいろな意味でかなりハードだったと思います・・・。
初回訪問時に行ったことは主に以下2点でした。
<ヒアリング>
・ferret Oneサービス全体の利活用状況
・各機能ごとの利用有無や利用頻度、認知確認(これがとても良かった)
・機能やサービスへの要望の吸い上げ
<提案>
・事前データから推測できる範囲でのサクセス提案
(※当時使っていたヒアリングシートの一部)
全クライアント訪問の中で最も衝撃的だった事実は、自分が想定した以上に、顧客がferret Oneの機能・活用方法を知らないことでした。機能利用有無の問いに対して、「◯(利用している)」という回答がほぼなかったのです・・・。
また同時に、【顧客がWebマーケティングのノウハウを知らないこと】が大きく影響していることも再認識できました。ferret Oneはマーケティングツールですが、機能を利用することは手段に過ぎません。
現在は導入初期から立ち上げまでを支援をするオンボーディングチームが存在しているので、導入顧客のほとんどが自社に適したマーケティングの初期設計から施策実施まで支援を受けています。ただ当時はオンボーディングチームも立ち上がって間もなかったため、お客様のほとんどは、このオンボーディングを受けていませんでした。それでは利用機能の偏りがあったり、サクセスしている顧客が少ないことも当然です。
そこで次にやらなければいけないことは、「顧客毎に合わせた再オンボーディング」しかないと思いました。
▶顧客の再オンボーディングと効率化
お客様によって導入目的や課題感もバラバラだったので、それぞれどのようなオンボーディングが必要なのか、手探りを続ける日々でした。
基本的な考え方としては、初回訪問時のヒアリング内容と現在の利用状況データ・サイトデータを基に「顧客が感じているギャップをどんな手段や方法を使っても解決しよう!」という感じだったので、かなりパワープレーを続けていた状態でした。
「全顧客で課題感が違う」と言っても過言ではないくらいの状況で、1日約3件ある訪問の事前準備は大変でした。
そこで少しでも効率化できればと思い、下記2つを始めました。
・レポートの型化
・訪問優先度の設定
レポート内容の型化については、ferret Oneのレポート機能から抽出すべき情報の選定から仮説や改善策の分類を行うことで準備前の考える時間を短縮するために始めました。
結果、レポート作成含めた訪問準備にかける時間は約1/3になり、顧客がサクセスするための提案や分析に時間を使えるようになりました。
訪問優先度については多くの方からアドバイスをいただきながら、試行錯誤を繰り返しました。当初は「全クライアントを2ヶ月毎に訪問する!」と考えていましたが、かなり早い段階で「あ、このままの体制では無理だな。笑」とわかりました。受注による新規クライアントの増加や、ターゲットの拡大までを当時は細かく考えていなかったんです。
もちろん人を増やせば対応は可能なのですが、まだ事業部全体としても体制を整えるフェーズで、当面は人を増やすこと考えられませんでした。なのでまずは訪問する優先順位付けをして、「訪問が必要なのに枠が埋まってしまい訪問できない」ということがないようにしました。
当時の優先順位が高い要素でいうと、
・契約更新日の4ヶ月前になる顧客
・サービス満足度が合格基準以下の顧客(1巡目ヒアリング時の確認内容)
・オンボーディングチームからの引継ぎ顧客
・アップセル提案中の顧客
・初回セットアップ未完了顧客(サイト未公開など)
上記の要素だけでも訪問枠はいっぱいになっていたので、これを決めることで「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」となることは少なくなりました。
※ちなみに現在は「ターゲット群(5段階)」×「ツール活用度(4段階)」等で、定期ミーティング(現在は訪問ではなく主にWeb会議で実施)の頻度を変更しています。
【立ち上げの成果と意義の実感】
すると定期訪問が2巡目に差し掛かったくらいに、少しずつ数値的な成果が現れてきました。大きくは2つです。
・ソリューションプラン検討顧客の増加(アップセル)
└ 検討社数:7月_0件→10月_10件
└ 受注社数:7月_0件→10月_5件
(※ソリューションプラン:広告運用代行、記事コンテンツ作成代行、ホワイトペーパー作成代行、事例インタビュー〜記事作成代行)
・契約継続率の改善
解約予定だった企業様からも、「こういった支援があるなら、もう1年頑張ってみるよ!」といった声をいただけるようになり、改めてアカウントサクセスチーム立ち上げの意義を実感することができるようになっていました。
今さらではありますが、私がカスタマーサクセス部に入る際、「攻めのCS(カスタマーサクセス)組織」をキーワードに活動したいと思っていました。顧客よりも顧客のサクセスを考え、提案し続けることでアップセルはもちろんのこと、MRR(月次経常収益)・CRR(顧客維持率)の改善による事業の収益成長を実現したいと。立ち上げメンバーは耳が痛いほど聞いた話だと思います。
全クライアントに訪問して顧客の解像度が上がったことで、自分が想定した仮説がブラッシュアップされ、より質の高い攻めの施策アイディアが出せるようになったと思います。
アカウントサクセスチームを立ち上げてから主にやってきたことは本当にシンプルですが、このあたりで大枠の体制はできていて、その後は細かいPDCAを回しているという感じです。
ここまでハイタッチ組織立ち上げについて具体的に書かせていただきました。私がハイタッチ組織立ち上げを行うことで再認識した部分は、
・施策の質を上げるには、顧客解像度を上げるべき
・顧客(ターゲット)毎に合わせたオンボーディングを実施するべき
・顧客のサクセスを顧客よりも考え、提案し続けるべき
の3つです。
一見ハイタッチでのアプローチは、効率化が叫ばれるカスタマーサクセス業務において「コストをかけすぎでは?」「効率化から遠ざかるのでは?」と言われがちですが、私はそうは思いません。顧客と向き合いインサイトを深く知ることで初めて、適切なリソース配分や施策実施ができるからです。
ferret Oneでは顧客の解像度が上がったこと、それによりVoC(顧客の声)を活かすことができる体制となったことで、既にカスタマーサクセス部で取り組んでいたロー・テックタッチ施策のアップデートや新しい施策にも取り掛かることが出来ました。
ここからはその一部をご紹介できればと思います。
※ VoC(Voice of Customer)とは直訳すると「顧客の声」ではありますが、単純に声を収集するのみではなく、顧客の声を分析したものをプロダクトやサービスに伝えて改善し、それを顧客にサクセスという形でフィードバックするまでをVoCの一環だと考えています。
【「VoC(顧客の声)」を活かしたCSでの代表的な取り組みについて】
こちらはハイタッチ組織立ち上げ前後での、社内取り組みの変化をまとめたものです。今回は上記の中から新規施策と改善施策をピックアップしたものをご紹介します。
▶「Uber Voice」会のアップデート(社内施策)
「Uber Voice」会とは、CS主導で顧客の声を社内で共有する会のことです。既に取り掛かってはいたのですが、明確に何を目的としなければいけないかが徐々に見えてきました。
せっかく声をシェアしても、その声を活用した施策が各チームにて業務内容に組み込まれ、かつKPI改善に寄与しないと価値が半減してしまいます。
特にプロダクトに対しては、「顧客解像度の上がった質の高い声」をプロダクト改善に活かしたいと思っていたので、意思決定の場である部長会での提案を行いました。当時このプロジェクトを推進してくれたメンバー(@pirori_saas)とは、「どう伝えたら施策改善まで取り組んでもらえるか」についてたくさんディスカッションしました。SaaSはプロダクトありきだと思うので、これについて考えるのは本当に楽しかったですし、このプロジェクトを推進し、基盤を作ってくれた彼女には本当に感謝しています。
ここからさらに派生してCSと開発・プロダクトの選抜メンバーからな「fOプロダクト委員会」という会議体が組まれました。定期的に開発進捗の共有や、CSからの機能改善提案の機会を作れていることも嬉しく思います。
「Uber Voice」についての詳細は、現在企画運営・推進してくれているメンバー(@katy___0516)がnoteを公開しています。下記のnoteをご覧いただければ「Uber Voice」の全体像がわかるかと思います(イラストも有りとてもわかり易いです)。どのツールベンダーでも実施可能なオススメの取り組みですので、是非参考にしていただけると嬉しいです。
▶ソリューションチームの立ち上げ(社内施策)
アカウントサクセスチームやオンボーディングチームが「攻めのCS」を実践することで、ソリューションプランの受注が激増しました。新卒1年目のメンバー(@upa_nm)が2,3ヶ月の間に500万円近いアップセルを受注してくれましたが、それに対応していくほどの社内体制が整っていなかったんです。嬉しい悲鳴ではありました。
当時は、Webコンサルティングの知識や経験のあったメンバーが私しかいなかったので、私が全ソリューション案件の窓口を行うことにしました。個人的な話ですが、個人リソースとしては最もキツかった時期です。笑
ソリューション体制の構築は急務だったため、案件の対応をしながら下記2点についての調査から始めました。
・ソリューション案件の工数把握
・不足要件の整理(社内リソースや対応ノウハウ)
おおよその工数把握と必要業務が見えてきたので、宮崎にいるサポートチーム・外部パートナーの選定を行い、体制構築を進めました。ソリューションチーム用のヒアリングシートも作成し、まずは小規模の案件から引継ぎを行いました。今ではほぼ全てのソリューション案件を、このチームで対応しています。
(※当時使っていたソリューションヒアリングシートの一部)
ソリューションチームを立ち上げたことで、
・ソリューション受注額の増加、案件数の増加
・ソリューションプランの拡充
を実現できるようになり、今では安定的にソリューションプランの受注を対応することができる体制になっています。
▶ウェビナーアップデート(ロータッチ施策)
ウェビナーについても既に実施自体はしていました。ですが当時はまだ顧客解像度が荒く、「誰のどんな問題をどのように」解決すべきなのかが曖昧だったので、ここをしっかりと定義しました。ターゲットや意義、成果指標を明確にすることで、
・ウェビナーコンテンツの見直し、新規作成
・ウェビナー告知メルマガリストの精査
・ウェビナー開催日の見直し
等に取り掛かることができ、参加人数や満足度の改善に繋がりました。ウェビナーも将来的にやりたいことが沢山あるので、日々ブラッシュアップを続ける日々です。
▶もくもく会の開催(ロータッチ施策)
この施策も、定期訪問を実施する中でやるべきだと考えていました。「使っているとすぐにわからないところが出てきてしまうのでテクニカルサポートに連絡するが、返信を待ってから作業を再開すると作業完了までに想定以上の時間が掛かってしまう」と言われることが多かったからです。
弊社のサポートチームはとても優秀で、「問い合わせへの返信は必ず30分以内」というルールのもとで迅速な対応を実行していますが、顧客の課題によっては「今」解決したいという内容も多いと思います。
そこで、「作業中の不明点をその場で解決して、よりサービスを活用してもらう」ための場所が必要だと思っていました。これもとあるメンバー(@miyakoshiyuumei)とディスカッションをして草案を作ってもらい、1回目の開催まで1ヶ月弱くらいで始動しました。
現在もくもく会の満足度は非常に高く、ツール活用スコアに大きく寄与しています。コロナ期間中にオンラインでの実施に切り替えましたが、今後はオフラインとオンラインを上手く組み合わせて実施していくことを想定しています。
オンラインもくもく会については、現在企画運営・推進してくれているメンバー(おしゃ)がを書いてくれているので、こちらをご覧いただけると全体像がわかるかと思います。
ハイタッチによって顧客の解像度が上がったことで、ロー・テックタッチ施策のアップデートや新施策への取り組みを実施できているのだということをイメージしていただけたでしょうか。下記の図のようにすべてのタッチをうまく活用することで、サクセスの好循環も生むことができるのです。
【今後取り組みたいと思っていること】
上記以外にも、
・オンボーディングKPIの見直し
・サクセスロードマップの見直し
・顧客セグメントの見直し
・ヘルススコアの見直し
・メルマガ活用方法の見直し
などを行ってきましたが、すべては顧客解像度が上がったことで定義を見直すことが出来たと思っています。
今は各施策が「立ち上げ期」から「磨き込み期」に移ってきていますが、まだまだ再現性の低い施策もあります。今後も施策ごとの効果検証を繰り返しながら顧客の解像度を上げ続け、施策のアップデートを実施していきたいです。
また、CXinのインタビューでも伝えていますが、塚本さん(@kakusatellite)率いるデータマネジメントチームとも連携しながら「コミュニティマーケティング」取り組んでいきたいと思っています。
そして中長期戦略を考えたとき、カスタマーサクセス全体の中でもハイタッチ組織の拡大成長は必至です。
その上で個人的には、「セールスのネクストキャリアとしてカスタマーサクセス」を啓蒙したいと思っています。セールス職で活躍する人材にも幾つかのパターンに分かれると思いますが、例えば「新規受注が得意」なのか「既存アップセルが得意」などです。特に後者の方は、カスタマーサクセス業務に向いていると思っています。「既存アップセルが得意」だということは、顧客起点での思考ができていることが理由だと思うので。
今の時代、セールスには提案力以外にもコンサルティング力が必要ですし、変な話コンサルタントよりも幅広いノウハウを持っている可能性もあります。ただ、自分が提案したことを実務実行まで出来ない(能力の問題ではなくミッションの問題で)もどかしさを抱えているセールスの方もいるのではないかと思っています(私はそうでした)。このあたりはまたまとめてnoteであったり、採用イベントで伝えたいなと考えています。
長くなりましたが、ハイタッチ組織立ち上げのために取り組んできたことから、それを活かした取り組みについて簡単ながら書いてきました。また結果として、契約継続率の改善やアップセル成果を上げることが出来ましたが、決してハイタッチ組織を立ち上げたからすべてが改善されたわけではありません。
これまでのカスタマーサクセス部のメンバーが、サポート体制の強化や解約顧客の対応(本当に大変だったと思います)などをやり切り続けてくれたことが、ハイタッチ組織立ち上げに伴う施策たちと綺麗に融合しての結果だと思っています。
ferret Oneで「攻めのCS(カスタマーサクセス)」が実行できるのは、「守りのCS(カスタマーサクセス)」体制が強固だからこそなので、引き続きカスタマーサクセス部全体での連携やコミュニケーションを強化しながら推進していきたいと思っています。
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