案件化率が2倍以上。オンラインセールスチームが取り組んだ営業資料改革とは。
はじめに
はじめまして!
株式会社ベーシックのオールインワン型BtoBマーケティングツール『ferret One』のセールスをしている大井菜緒です。note初執筆です!
現在新卒2年目で、インサイドセールスが創出してくれる商談を実施し、一定の条件を満たした商談のみをフィールドセールスにトスアップする「オンラインセールス」という役割を担っています。オンラインセールスはいわば、商談のフィルタリングを目的とした「初回商談専門のセールス」です。オンラインセールスでは、案件化数をKPIとして追っています。
※ 本noteにおける「案件化」とは:実施した新規商談の内、ferret Oneのサービス内容や価格を理解した上で検討いただけている商談数。有効商談数。
私は入社以来セールスチーム(インサイドセールスに3ヶ月、フィールドセールスに3ヶ月、オンラインセールス1年2ヶ月)に所属していますが、もともとセールスを特別好んでいたわけではありませんでした。むしろ、対人コミュケーション自体に苦手意識があったため、セールスという職種は、生きているうちは避けては通れない、突破しなければいけない関門だと思っていました。
そんな私でも、2020年通期でミッションとして追っている数値目標(案件化数)を達成し続けることができたのは、「"トップセールスだけが100点をとれる状態"でなく、誰でも70点を取れる仕組み」を作るための取り組みがあったからだと思います。
その取り組みとは、「各営業が持っている商談のナレッジを資料ベースで共有すること」です。
例えば、
「商談の進め方や話し方が人によって異なり、標準化できていない」
「”売れる営業”はいるが、そのテクニックやコツは本人の頭の中にしかないため、新人がそれを学ぶためには都度聞きにいかなければいけない」
「商談に使う参考資料が社内に散在しているため、新人はどこに何があるのかを把握するのに時間がかかる」
といったご状況であれば、このnoteを通じてお役立ちできるかもしれません。
弊社では、2019年10月にオンラインセールスチームが立ち上がってから営業資料の整備を継続的に行ってきました。もちろん他の要因もありますが、その1年後には立ち上げ期の2倍程の案件化率(=実施した新規商談の内、案件化した商談の割合)を維持できる組織になりました。今回は、具体的に取り組んできた内容をお伝えしたいと思います。
なお、商談のナレッジを共有するというくくりでは、商談の音声を録音しフィードバックする、社内勉強会を開くなど様々な手法が考えられますが、今回は最も社内共有がしやすい「営業資料」を中心にお伝えします。
取り組みの全体像
まず、オンラインセールスが行う初回商談には、①事前準備、②商談、③商談後のフォローアップの3ステップがあり、各ステップごとに準備が必要です。今回は、この3ステップに切り分けて、弊社が行っている営業ナレッジ共有の取り組みをご紹介します。
(1)事前準備|業界別商談ナレッジ集「営業虎の巻」
作成した目的
まず前提として、弊社が取り扱っている『ferret One』は、BtoB企業のリード獲得を支援するためのツールとマーケティングアドバイスをパッケージにしたサービスです。したがって、商談を成功に導くためには、マーケティング支援会社として信頼してもらえるかが重要です。そのため、商談の事前準備では、見当違いなヒアリングを避け、的を得た提案をするために「①顧客の業界に関する知識の装着」と「②ニーズや業界に合った事例情報の装着」を行います。
しかし、業界に関する知識も事例情報も、経験値の高いセールスの脳内にあるといった状態で、情報共有がされていない、いわば属人化している状態でした。加えて、特定業界の事例を探そうと思ったときに、社内のSFAやドキュメント、会議資料等、様々な場所に情報が散在していたため、最新の顧客情報をキャッチアップするのに時間がかかる、という課題もありました。シンプルに言えば、商談の事前準備の効率がとても悪かったのです。
そこで、商談準備の効率化、そしてそれによる提案力強化を目的に、業界別商談ナレッジ資料「営業虎の巻」を作成することにしました。「営業虎の巻」とは、その名の通り業界別の事例や商談の進め方をまとめた資料です。内容としては、主に①業界別解説資料、②業界別事例資料 の2つに分けています。
① 業界別解説資料
業界別解説資料とは、商談時に最低限求められる業界知識の装着を目的とした資料です。
これまでは、業界知識の装着のために業界地図や業界別書籍を使用していましたが、業界地図では、一業界あたりの情報量が少なく(大手企業の情報が多く、中堅企業が関わる情報は少ない)、業界別書籍では一業界あたりの情報量が多すぎるため、全業界分をインプットするのは現実的ではないという問題がありました。そのため業界別解説資料では、簡単に必要な知識を装着できるよう各業界ごとに2~3ページに要約して作成しました。
具体的な項目は以下の内容です。
■ 業界別解説資料の項目とそれぞれの作成手段
・業界の特徴、ビジネスモデル
└ 各業界で勤務経験のある社員にヒアリング、解説記事の収集
・ターゲットの職種や検討時に求める情報
└ 作成メンバーでブレスト、ターゲット職種の社員にヒアリング(例:人材サービスなら人事担当)
・業界別マーケティングTips(他社の解説記事や業界内の有名企業のサイト情報)
└ 業界内の主要企業のサイトを確認
・主なマーケティング施策
└ 既存顧客に提案している施策情報を集約、弊社マーケ部長にヒアリング
・ターゲットが情報収集する際のキーワード例
└ 作成メンバーでブレスト、弊社マーケ部長にヒアリング、ターゲット職種の社員にヒアリング
特に取り組んでよかったのは、業界別マーケ施策や主な検索キーワード例です。初めてマーケティングに取り組む企業は、「まずどんな施策から取り組んだらいいのか」ということを悩んでいるケースが多いため、具体例を提示することで信頼を得ることができます。
逆に、作成に時間がかかったものの運用に乗りづらかったのは、受注企業の傾向分析や提案ストーリーの仮説です。各企業の会社規模(資本金・従業員数)や商材単価、受注理由を一覧化し、商談時に訴求するべき訴求内容を仮説立てるという内容なのですが、作業自体は楽しかった一方であまり活用することができていません。やはり、作成者である私自身の解釈が内容に入ってしまっているため、他の人が読んでもイメージしにくいのではないかと思います。
なので、実際にこのような社内資料を作る場合には、「事実ベース」のナレッジを集約することをおすすめします。
②業界別 事例資料
業界別事例資料では、業界ごとに『ferret One』を利用して成果を出している企業の情報を業界ごとにとりまとめています。
弊社では、カスタマーサクセス部から顧客の声を共有する「Uber Voice」という取り組みを行っているため、最新の情報をキャッチアップできるようになっていました。
商談時には、最新顧客の声に加えて、「当初どのような課題をもっていて、それをどのように解決したのか」という受注当時のストーリーをいかに生々しく話せるかが重要です。しかし、それがSFAや様々な資料に散在してしまっていて、1社分を集約するのも工数がかかっていたため、主要企業の情報を整理しました。
■ 業界別事例資料の項目とそれぞれの作成手段
・事例企業のビジネスモデル(ターゲット・競合等)
└ サポート時に入力していただくカルテ
・提案時の課題
└ 当時の営業資料や議事録、SFA
・導入後の成果
└ カスタマーサクセス側の議事録、インタビュー記事、カスタマーサクセス担当へのヒアリング
・取り組んだ施策
└ カスタマーサクセス担当へのヒアリング
・運用体制
・お客様の生の声
└ Uber Voice
なお、虎の巻の資料(業界別解説資料・事例資料)に関しては、お客様の詳細のデータが一部含まれているので、商談で見せることはしません。基本的には、「どのようにしたらWebマーケティングで成果を出せるのか?どのようにして『ferret One』で成功したのか?」ということを各営業担当が自分の言葉で話せられるようにするための、インプット用資料として使っています。
運用に乗せるために
こういった社内資料は、頑張って作成したけれども、結局放置されて忘れられる…ということにもなりがちなため、完成後も活用してもらえるよう、Slackのカスタムレスポンス(特定のキーワードを入力すると、指定の文章を返す機能)をセットアップしました。また、月1くらいのペースで資料内容の共有会も開催しています。
(2)初回商談|商談資料「オンラインセールス商談素材」
作成した目的
2019年10月頃、オンラインセールスチームができたときには、汎用的な営業資料以外は全く整理されていない状態でした。各セールスが商談で使う資料は、個別の提案資料の中にしかなく、商談中に一時的に見せたい資料があっても、経験値の低いセールスには、どこにあるのかがわからない状態になっていました。
そこで、商談中に見せる資料を数ページ単位で切り取り、いわば「資料倉庫」のようにすぐに資料を取り出せる仕組みを作りました。
具体的には、下記のような資料を格納しています。
・事例紹介資料(ニーズ別等)
・よくある質問(テクニカル面)
・競合比較資料(比較対象別)
・汎用的な提案資料(製品情報というよりは、「取り組むべきマーケ施策」、「あるべきサイト構造」といった参考資料)
いずれも、1ファイル2~3ページのボリュームの少ない資料です。
例えば、事例資料であれば、こちらの図のように情報を集約しています。
・企業名
・導入前の課題
・事業課題を解決したストーリー
・成果
・商談時に説明する補足情報
事例資料のあるべき状態は、「誰が見ても導入効果を理解できるものであること」です。そのため、資料内に端的に成果を記載しつつ、生々しくストーリーを話せるように、補足情報(企業規模、どのように社内説得をしたか、体制等)をメモ書きとしてつけておくと、効率的に共有することができます。
運用に乗せるために
これらの資料は、今ではオンラインセールスの業務に欠かせない存在になっており、完全に運用が定着しています。運用が定着しているポイントになっているのは、シンプルですが「誰でも新規作成ができる」ことです。
1資料あたりのボリュームは2-3Pほどなので、ボリュームのあるクオリティの高い資料を作る必要はありません。そのため気軽に新規作成ができますし、使わなければ使用頻度が低い資料用のフォルダに格納できます。
また、数ヶ月に一度資料の「断捨離会」を行っています。この会では、活用頻度の低い資料を専用フォルダに整理するだけでなく、全資料の使用頻度別のランキング付けを行います。
本当にざっくりしているのですが、下記のような3ランクに割り振ります。
01:ほとんどの商談で使う資料(およそ7-8割ほどの商談で利用する)
02:まぁまぁ使う資料(およそ4-6割ほどの商談で利用する)
03:たまに使う資料(およそ1-3割ほどの商談で利用する)
資料のタイトルに、ランキングナンバー(01〜03)をつけると、その順番に資料が一覧表示されるので、商談時に資料の場所に迷うことがなく、便利です。
個人的には、この断捨離会がとてもおもしろく、商談ナレッジを共有する絶好の機会だと思っています。誰でも新規作成ができる運用だからこそ、断捨離会で資料を洗い出すと「この資料、なにこれ?誰が作ったの?どう使うの?」というものが出てきます。
そうすると、この疑問をきっかけに、各セールスの最新のトークや商談の進め方などを共有・議論することができるのです。
(3)商談後のフォローアップ|ニーズ別サービス紹介資料
次に、商談後のフォローアップについての取り組みを紹介します。
作成した目的
弊社のオンラインセールスによる初回商談後は、主に3パターンのネクストアクションがあります。
① フィールドセールスによる提案商談の場をセッティング
② 商談後追客(その後、失注 or 再商談セッティング)
③ 失注
オンラインセールスのゴールは、ニーズを見極め、①提案商談を近日中にセッティングすることです。しかし、初回商談後追客したものの停滞・失注するケース(②、③)が一定生じてしまっていました。
その課題を解決するために、初回商談における、関係構築力・ヒアリング力・提案力などのトークの磨きと並行して、誰もが・よりニーズにあった提案ができるようになるために、サービス紹介資料を課題別に型化しています。
例えば、弊社にお問い合わせいただくお客様は、「リード獲得をしたい」というニーズがあったとしても紐解いていくと、例えば「施策の設計の仕方がわからない」「ツールの選び方がわからない」などと、その課題は多岐に渡ります。
それらを共通の汎用資料でご案内する形でも問題はないですが、より効率的に、課題に合致した見せ方にして、停滞する商談を減らしたいという目的があり、資料を切り分けていくことにしました。
具体的には、下記のような内容でまとめています。
■ 課題別サービス紹介資料の具体的な内容
・表紙<課題別にカスタマイズ>
・目次
・『ferret One』とは <課題別にカスタマイズ>
・課題整理 <個社別にカスタマイズ>
・解決策のご提案 <課題別にカスタマイズ>
・事例 <課題別にカスタマイズ>
・料金やスケジュール <課題別にカスタマイズ>
・よくある質問
ただし、あくまで0→1で資料を作成する部分を効率化するものなので、これらの資料を基にカスタマイズしていきます。
運用に乗せるために
① パターンの数を増やしすぎない
例えば、新規事業立ち上げニーズ ✕ 料金プラン(松・竹・梅)など、組み合わせを増やすと、マスタの数が増えて管理が煩雑になり、運用に乗らなくなります。シンプルにニーズ別に作りパターン数を増やしすぎない方法がおすすめです。
② 効果検証を行う:Sales Doc
このニーズ別サービス紹介資料の取り組みについては、直近で取り組み始めたものなので、成果につながるのかそうでないのかをまだわかりません。これからその検証をするため、「Sales Doc」という営業支援ツールを利用しています。
このツールは、一部機能で「どのページがどれくらい見られているのか」を集計することができます。これを活用することで、商談時には重要視していない資料が意外と見られていたりするなど、新たな気づきもありました。このデータも参考にしながら、さらなるブラッシュアップや資料の取捨選択をしたいと思っています。
最後に
取り組んだ結果
本noteでは、商談ナレッジを共有する具体的な手法として、(1)業界別商談ナレッジ集「営業虎の巻」、(2)商談資料「オンラインセールス商談素材」、(3)ニーズ別サービス紹介資料、この3つをご紹介しました。
オンラインセールス立ち上げ時(2019年10月)には、チーム全体の案件化率が11%しかなく、試行錯誤をした結果チームとしての数値向上はあったものの、営業Aは21%、営業Bは38%、というように個人スキルには大きな差が生じていました。しかし、この年末(2020年12月)には、チーム全体では41%まで改善することができ、営業ごとの案件化率の乖離は2~3%程度になりました。
もちろん、季節要因やリードの質の向上等様々な要因は考えることができますが、各営業のスキルを標準化し、しかも全体を底上げするという観点では効果を発揮できているのではないかと思います。
また、オンラインセールス用の資料をアウトプットするために、マーケティング部やカスタマーサクセス部の方々にご協力いただく機会も生まれました。嬉しいことに、一部の資料はカスタマーサクセス部側で既存顧客向けの参考資料として横展開していただくこともありました。昨年はリモートワークになったため、いままで以上に部署間のコミュニケーションがとりづらい状況ではありましたが、部署間連携のきっかけを作る副次的な効果もあったように思えます。
商談ナレッジの共有にあたって重要なこと
では、資料整備をはじめとする「商談ナレッジの共有」において、最も重要なことは何なんでしょうか。それは、当たり前ですが「運用に乗るものを作る」ということだと思います。
今回様々な資料化に取り組みましたが、正直運用に乗りやすいものとそうでないもののばらつきがありました。運用に乗りやすいものの共通項は、ずばりこの3つだと思います。
① デザインが整っていて、使いたいと思うもの
② 運用ルールがシンプルであること
③ 便利であること(顧客に伝えたいメッセージを端的に表しているもの)
なお、①のデザインに関しては、資料全体の統一感を出し、内容をわかりやすく伝えることが目的なので、かっこよさなどを追求する必要はありません。弊社の場合は、資料作成時のレギュレーションをまとめた資料を作っているため、誰でも統一されたトンマナの資料を作成することができます。
基本的に、運用を強制しても定着しないので、自然と運用に乗る(=使いたい)状態を作ることがとても重要です。
今後に向けて
今回は、資料の活用に焦点を当てた内容をご紹介しましたが、トークの部分や商談の組み立て等に関してはまだまだまとめきれていない部分があります。これからメンバーが新しくジョインするときにも迷わずスキルを装着できるよう、引き続き整備を進めて行きたいと思います。
まだ道半ばではありますが弊社の取り組みが、営業スキルの標準化をするための方法の1つとして、少しでもご参考になれば幸いです。
長文になりましたが最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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