不確実性が多く難易度が高い“PLG型SaaS”のマーケターに転身した私が大切にしている4つのポイント
こんにちは!株式会社ベーシックのなしきと申します。
私は2020年に新卒でベーシックに入社し、「ferret One」というサービスのマーケティング(リード獲得など)に携わっていました。その後2022年にPLG事業部に異動し、それ以来フォーム作成管理ツールである「formrun」のマーケティングを担当しています。
ferret Oneとformrun、SaaSという点は同じですが、マーケティングのアプローチは全く異なります。
ビジネスには明確な正解がなく、常に”不確実性”と向き合い続けるもの。ですが、事業の毛色が変われば不確実性との向き合い方も大きく変わるということを、2つのサービスを経験することによって強く感じています。
特にformrunのようなPLG型のSaaSは、その数自体が国内でまだ少なく、上司からは「なしき君はめちゃくちゃ特殊で尖ったことをしているんだよ」とよく言われます。自分でもその実感はあります。
このnoteでは、そんな私たちのマーケティングチームがこの半年間で経験してきた、「PLG型SaaSにおける不確実性へのアプローチ」についてお話できればと思います。
特に以下に該当する方にお読みいただき、少しでもPLG事業部の挑戦に興味を持っていただければ嬉しいです!
チームの役割分担
PLG事業部の組織は大きく分けると、プロダクトの進化を進め、UI改善・解約(チャーン)防止を担う「プロダクト部」と、新規顧客の獲得を担う「User Experience部」に二分されます。私はそのうちのUser Experience部に所属しています。
User Experience部の中では、基本的には以下の図のような集客の“ファネル”に応じて役割を分担しています。また、その事業推進を進める根幹にはデータが欠かせないため、横断でデータ分析チームがいるという体制です。
その中で私の役割は、ファネルの左半分全体です。最初無料で登録いただいたユーザーにformrunの価値を提案・感じてもらい、有料プランを契約いただくことを目指しています。具体的なKPIとしては、“無料チームの有料転換率”です。
そのための取り組みは、大きく二種類に分かれます。
一つ目は、MAツールやポップアップツールを使ったコミュニケーションによる活用促進です。
例えば、活用Tipsをまとめたコンテンツを作ったり、よく使われている機能の訴求内容を考えたり、そしてそれをステップメールやメルマガで配信し、プロダクト内でもポップアップの形で案内するなど。
二つ目は、プロダクトそのもののUI/UXを改善することによるユーザーの利用促進です。
ファネル落ちの原因となるUI/UXを仮説立てて改善案を出し、要件定義をします。
何をするにも、プロダクト内のUXに変化をもたらす施策になるので、PdMとの調整や、エンジニア / デザイナーとの関わりが欠かせません。
プロダクト部とUser Experience部、さらには開発部を合わせると総勢約30人の組織ですが、仕事をする上で関わらない人はほとんどいないような環境です。
(※ PLGでの”協働”の重要性については、PLG事業部長の佐々木が以下の記事で詳しくお伝えしていますので、よろしければ合わせてご覧ください。)
PLG型SaaSならではの「不確実性」とは
どんなビジネスにも不確実性はつきものですが、ことPLG型SaaSではひと味もふた味も違うように思います。今思うと、異動したての頃はこの特徴にあまり自覚を持てず、苦労したこともありました。
ここでは、PLG型SaaSならではの、「4つの不確実性」について紹介します。ここで誤解してほしくないのは、不確実性があるからダメだということではなく、それらをコントロールするための手段はあること、そしてそれらと向き合うことは他ではなかなか経験できないからこその楽しさがある、ということです。
1.プロダクトで価値を伝えるモデルなので、課題を自覚していない顧客へのアプローチが難しい
改めてにはなりますが、一口にSaaSと言っても、大きく分けて2つのビジネスモデルがあると言われています。
「セールスがプロダクトを売る」SLG(Sales-Led Growth)型SaaS
「プロダクトがプロダクトを売る」PLG(Product-Led Growth)型SaaS
Salesforceなどに代表されるSLG型SaaSの特徴として、セールスで価値を伝え、高単価で、ハイタッチでのオンボーディングすること(サービス提供者:顧客=1:1でプロダクトの導入支援を行うこと)が挙げられます。ベーシックで提供しているサービスであるferret Oneも、SLG型に分類されるSaaSです。
一方PLG型SaaSの特徴としては、Slack、Zoomのようにプロダクトで価値を伝え、低単価で、テックタッチでオンボーディングすること(人力ではなくテクノロジーを使ってプロダクトの導入支援をすること)が挙げられます。
営業やインサイドセールスがいれば、すでに特定のサービスへの需要がある人はもちろんのこと、課題をまだ自覚していない人に対して「ヒアリング」や「示唆・提案」をすることで顧客の心を動かすことができます。
実際、SLG型SaaSであるferret Oneにおいても、「〇〇さんの提案に惹かれました!」「人の魅力が決め手です」という顧客の嬉しい声がたくさん届きます。営業の偉大さを尊敬していました。
しかしPLG型SaaSの場合、いわゆる営業部隊が存在しません。あくまで全てはプロダクトでの勝負。そのため、SLG型と比べて、課題を自覚していない顧客に買ってもらうための難易度がグッと上がります。
比較検討の材料や、決裁の通し方といった売れるまでの要素など、営業が握っているこれらが全てプロダクト側にやってくるのです。
2. 顧客理解を深める手段が多様化・複雑化する
セールスがいれば、問い合わせが発生したタイミングで電話をすることで、顧客の具体的な検討時期を聞きだすことができます。
あるいは、「最近こんな課題で問い合わせをくれる人が増えてきた」「この会社は〇〇が決め手で受注した」といった顧客課題の示唆となるフィードバックを得られ、それをマーケにも共有することで、顧客獲得のためにより筋の良いアプローチを講じることができます。
一方PLG型SaaSは、プロダクトがプロダクトを売るモデル。セールスが不在のため、そういった声を人づてで受け取る手段は基本的には取りません。
その代わりに、プロダクトの活用状況や行動ログなどのデータを豊富に集めることができます。データは見方次第で多くの示唆を与えてくれるため、使いこなせば顧客理解への強力な武器になります。
一方データには無機質な側面もあるため、ユーザーが「なぜ有料化してくれたのか」「利用をあきらめた理由は何なのか」といった情報は、ユーザーヒアリングでも能動的に取りにいく必要があります。
後ほどもお話ししますが、PLG型SaaSでは、データとユーザの生の声、両者の使い分けが非常に重要になってきます。(それが面白いところでもあります)
3.TAMが大きいので、セグメンテーションが何通りも考えられる
基本的に、国内外問わずWebサイトであればどのWebサイトにでもフォームを埋め込める可能性があります。
と考えた時に、日本の稼働Webサイトだけでも約2,800万サイト、海外も含めると約19億サイトはあると言われているため、そのTAM(最大の市場規模)は莫大であるといえます。
また、formrunは現在大きく7つの用途でご利用いただいており、導入企業の業種も多種多様、規模も個人事業主から大企業まで様々です。
市場規模の大きさと用途の広さ。そのセグメントの組み合わせを挙げだすとキリがなく、どのセグメントで・どの指標が・どのくらい伸びしろがあるのかというのを見極めた上で施策を講じなければ、全く当たらない施策になってしまいます。
ここまで紹介してきた中でも、これが最も不確実性を高めている要素だと考えています。
4.新機能やプロダクトが増える度に、不確実性が増えていく
PLG事業部では、現状提供しているformrunに加えて、今後様々な機能やサービスをローンチしていく予定です。
それだけ多くのお客様のニーズに合ったプロダクトになっていくということですが、それはつまり上述のTAMがより拡大し、ユーザーのユースケースも多くなるということでもあります。
セグメンテーションやコミュニケーション設計といった③の不確実性に拍車がかかり、今でさえ何通りも考えられる組み合わせがべき乗で増えていくのです。
不確実性と向き合った実例 ~徐々に体系化した施策検証プロセス~
ここまで「4つの不確実性」について触れてきましたが、その中で一つずつでも確実に分かることを増やしていき、学びを得ない限り、組織・事業の成長はありません。
では、そのような不確実性とはどう向き合っていけばいいのでしょうか。その大きなカギを握るのが、データの活用だと考えています。
formrunでは、サービスの登録から有料化までのプロセス(ファネル)を以下の図のように定義しており、重要な指標の一つに「フォーム作成完了率」というものがあります。
簡単に言うと、ユーザー登録後にフォーム作成を開始した初回ユーザーが、フォームを保存・公開してくれた(=離脱しなかった)率を表す社内の指標です。
「チームの役割分担」のところで、User Experience部の中でも私の主な取り組みはとして「MAツールやポップアップツールを使ったコミュニケーション」「プロダクトそのもののUI/UX改善」の2つを挙げましたが、このフォーム作成率の向上のためにも、常にデータをみながらそれらの施策を通じて仮説検証を繰り返しています。
私が異動してきた当初から、このフォーム作成完了率の改善が1つの課題となっていました。その要因として、フォーム作成の体験におけるステップの長さ(画面遷移の多さ)が仮説として挙げられていました。
それに対して、異動したてで一刻も早く結果を出したかった私は、ステップを一つ減らすUI変更をかつて行いました。
結果は…惨敗でした。フォーム作成完了率は10%ほど低下。数にして月あたり100以上のフォームが作られなくなってしまい、チームに大きな影響を与えてしまいました。
どうしてそうなってしまったのか? より良い仮説を立てるために、フォーム作成完了率をさらに1画面単位で分割してデータを取得し、離脱率の変化を確かめました。
すると、最初のカテゴリ選択ページとテンプレート選択画面の離脱が悪化していることが分かりました。
そのデータを踏まえ、改めてユーザー視点で追体験をすると、二つの仮説が浮かんできました。
①作りたいフォームテンプレートにありつけない
→具体例の説明がなくなったことで、作りたいフォームを作るためにどのカテゴリーを選べば良いかが分かりにくくなった。テンプレート選択画面へ到達されにくくなった
②テンプレート選択画面が、何をする場所か分かりにくくなった
→ガイドとなるダイアログがなくなったことで、断絶が生まれた
要は、フォーム作成を開始するまでのステップを減らしたのと引き換えに、どうすれば作りたいフォームを作成できるのかという「分かりやすさ」を損なってしまっていたのです。
では、分かりやすさを取り戻すために、またプロダクトのUI/UXを変えるのか? 実はそうはしませんでした。
一般的に、「プロダクトそのもののUI/UX改善」はユーザーの動きを大きく変えうる取り組みで、デザイナー / エンジニアのリソースも必要となるため、ハイリスク・ハイリターンとも取れます。変更に一定のリードタイムが生じる上、数値が悪化した際に切り戻しの工数もかかってしまいます。
そこで、分かりやすさを高める仮説検証のステップとして、まずはツールチップ(画面上に出てくるチュートリアル)の設置を行いました。テンプレート選択画面に補助説明を加えた形です。
ツールチップを設置するだけなら外部のノーコードツールを使えばできるので、エンジニアやデザイナーのリソースを借りなくても、ビジネスサイドだけで一日もあれば施策につなげることができます。いわば、最小単位でのUI改善から始めたわけです。
結果として数値は若干回復。これにより、分かりやすさを向上することの妥当性が少し高まりました。その実績をもって、より分かりやすさを補う形でUIも変更。今度は無事に数値が回復・上昇しました。
ベタな話かもしれませんが、PLG型SaaSでの施策検証におけるデータ活用の重要性を思い知った経験でした。
不確実性と向き合う上で、大切にしている4つのポイント
かなり具体的な話になりましたが、ここで話を戻し、今回の大きなテーマであるPLG事業の不確実性との向き合い方について改めてまとめます。大きくは4つのポイントがあると考えています。
1.狙う用途の明確化
不確実性の③「TAMが大きいので、セグメンテーションや優先度決めが何通りも考えられる」でも触れましたが、formrunは現在大きく7つの用途でご利用いただいています。
しかし、全ての用途への利用促進を均等に分散していては、どっちつかずなプロダクトになってしまう危険性があります。
そこで、これまでの契約数・契約期間などのデータから、リード獲得目的のお問合せフォームなど、新規顧客の獲得を目的とした用途に注力ターゲットを定めました。2022年の夏頃からです。
これにより、必要以上の不確実性に向き合うことなく、考えるべきテーマや注力施策の優先順位を立てるのがいくぶん考えやすくなりました。
2.データドリブンであること
どんな事業でも一定そうではあるものの、前述したように、PLG型SaaSの事業推進においては、特にデータを元にした仮説検証の重みが増します。
これまでも述べましたように、PLG事業部では顧客の購買にセールスを介在させていません。直接的なお客様との接点が無いため、意思決定の拠り所としてデータの比重が高くなるためです。
ユーザーの属性、プロダクト内外のアクション、プロダクトの利用状況など、見るべき指標はたくさんあります。そのためデータ活用のソフトスキルが必然的に鍛えられますし、チームのデータ活用の促進を支えているのがデータチームなのです。
(※そのようなPLG事業部のデータチームの取り組みについては、弊社の深川がnoteにまとめていますので、よろしければ合わせてご覧ください。)
余談ですが、2023年の上半期に、PLG事業部では「データ教育プログラム」というものを始めています。これまでは、SQLなどを使ったデータの抽出業務を上述のデータチームに依存することが多かったのですが、マーケターやPdMも、誰もがSQLを使いこなせるよう、データ活用の標準化を目的に始めました。
2023年の上期中に一定の活用レベルまで達することが、プログラム参加者全員のミッションにもなっています(私も絶賛勉強中です)。PLG事業部において、データの活用をどれだけ重視しているか、この取り組みからも感じていただけるのではないでしょうか。
3.まずは小さく検証
不確実性と向き合う上で、“仮説検証”はセットですが、それには適切な進め方があると考えています。先の失敗例もそうでしたが、いきなりプロダクトに大がかりな変更を加えるのはリスクを伴います。
もちろん時にはリスクを取ることも大事ですが、失敗する可能性が高いものに賭けても、損失が生まれ、取り戻すのにも時間がかかってしまいます。
そのため、プロダクト改善策の立案にあたり「まずはミニマムでできることからやる」ようにしています。
その手段として、下記4つのサービスを、ミニマム検証のためのツールとして位置づけ使い分けています。これらを使って複数の施策を同時進行で行っています。
ツールを使った施策は最小工数で行えるため、それで仮説の有効性を検証し、勝ち筋が見えればUI/UX改善の施策を実行するという流れです。
4.データで取得できない情報は、ヒアリングでカバー
あくまでPLG事業部はデータドリブンが主軸ですが、当然データだけでは取りえない顧客の内面的な動機もあります。売り手が思う以上に、顧客の意思決定はあいまいだったりするものです。
そこでPLG事業部では、ユーザーヒアリングをその時々のテーマに沿って行っています。ヒアリングする内容は、データだけでは芯を食った仮説に深まらないようなテーマが主です。
例えば直近だと「無料トライアルから有料契約に進まなかった理由」「フォームの解答数を増やすために行き詰まっていること」などのテーマでヒアリングを行いました。
ヒアリングは、ある施策に対する初期仮説・データが全然ない場合にも有効です。当てもなくデータを要件定義するより前に、ヒアリングの定性情報からアプローチする方が的を絞りやすくなると思います。
プロダクトでの言い訳ができないからこそ、プロダクトで勝負する
formrunはサービスリリース以来ハイペースでユーザーを伸ばし続け、昨年末には25万ユーザーを突破しました。
これまでの成長レバーとして大きかったものでいうと、2021年以前は「プライシングの最適化」、そして2022年は「集客チャネルの拡大」でした。ですがその根底には、常にプロダクトの進化があります。
2023年にも複数の新機能、さらには新プロダクトのローンチを控えており、このnoteを書いている今(2023年3月)はまさにその仕込み期間です。
2023年は、フォーム領域でまだ狙って獲得できていなかった市場へも狙いをつけ、「TAMの拡大」で飛躍する一年にしようとしています。
現在私の所属するUser Experience部では、新機能のリリースに向けて、ニーズの仮説検証をプロダクトグループと連携しながら進めています。
この半年間で体系立ててきた仮説検証プロセスですが、まだまだ発展途上です。今後さらに検証ポイントは増えていくと思いますが、これまで体系化してきたものをアップデートし続けながら向き合い続けていきます!
最後に告白をしたいのですが、私はこのPLG型のビジネスモデルがとても好きです(笑)
営業がいる分、SLG型SaaSの方が売りやすいという側面はあるかもしれません。ですがPLG型SaaSの場合、良い施策がハマった時のインパクトは非常に大きくなります。
しかもそれが単発ではなく持続し続けるため、人を介さないオートマティックな引き上げが一気に進みます。収益性も上がっていきます。
プロダクトでの言い訳ができず、プロダクトの力一本で勝負していくことに大きな意義を感じています。
PLG事業部の組織は、これまで新卒を中心とした若い力によって成長してきたという大きな特徴があります。深川・佐竹・りんちゃむのように、2〜3年目でマネージャーやプロジェクトリーダーを務める人が複数います。私もその中に昨年飛び込みましたが、日々のスピード感が尋常ではなく、非常に力強い組織であると常々感じます。
formrunでは「世の中のすべてのフォームをformrunにすること」を本気で目指しています。このnoteをご覧いただいた、エネルギッシュで成長意欲あふれるみなさまと、将来一緒に働けることを楽しみにしています。このnoteで我こそはと感じられた方は、ぜひ採用サイトも覗いてみてください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!